田島ヶ原サクラソウの現況と問題点

サクラソウの生育状況の推移

2019年4月の調査ではサクラソウの株数は54万株に落ち込み、開花率も18.2%で、2011年からは9年 連続で減少し、減少傾向に歯止めがかかりません
1997年から急速に増加したものの2003年の235万株をピークに減少傾向に転じ、多少の増減はあるものの2014年 からは調査開始時点の水準を23年振りに割ってしまいました。
2016年からは新進気鋭の埼大の荒木祐二准教授が顧問になり、積極的に色々調査・実験を進めています。市議会 でも現状が報告され、国庫補助事業も実施しているので、遠くない将来には増加に転じる事が期待されます。
年度別サクラソウの株数グラフ
年度別サクラソウ株数一覧
※生育状況表及びグラフはさいたま市教育委員会資料より   (生育個体数は実測した10m四方の11区画の平均数)

田島ヶ原サクラソウ自生地の主な問題点

生井兵冶筑波大学元教授は1990年の田島ヶ原サクラソウ自生地―天然記念物指定70周年記念論文集の中で 「田島ヶ原サクラソウ自生地には有効な花粉媒介昆虫は全くといってよいほど飛来しないので、野生訪花昆虫の繁殖地をいくつか 設ける必要がある。しかしそれより先にノウルシに侵略されないように、適宜適当な措置を施す必要が急務。サクラソウの永続的 な保全を図るには、種子繁殖による継代が不可欠。」と述べています

訪花昆虫(ポリネーター)の不在

花粉媒介昆虫(ポリネーター)不在については鷲谷いづみ東大教授も「4年間の調査でごくまれに飛来するチ ョウ以外訪花昆虫は観察できなかった」と書いています。そしてサクラソウは花の時期が早春で花筒が長く花粉を媒介できる昆 虫はごく限られ、ポリネーターはトラマルハナバチの女王と実証されたとしています。
私もサクラソウの花の時期にはほとんど訪花昆虫を見ていません。果実は付いているのを見ますが、途中で 黒く腐ってしまうのも見受けられ、正常な他花受粉によるものなのか同花受粉なのかは不明です。
いずれにしてもこの問題はそう簡単に解決できそうもありませんが、貴重な田島ケ原サクラソウ自生を後世 に引き継いでいくためには避けて通れない問題です。

ノウルシの侵略によるサクラソウへの影響

そしてノウルシの侵略は深刻で、サクラソウが花を咲かせる時期には一面黄緑色の世界が広がり、その中に ピンクが点在している有様でノウルシ園の様相を呈しています。近年はノカラマツもかなり多くなり、サクラソウは年々その 生育場所を奪われています。
大正9年の天然紀念物調査報告で三好学博士は「モットモ固有ナルハ桜草ニシテ仲春ノ頃ニハ原頭一面紅 花ヲ以テ飾ラレ之ト交リテ黄色ノ野漆(中略)等花ヲ開キ恰モ天然ノ花薗ノ如ク一大美観ヲ呈ス」と書かれていますが、現在は完 全に主客が転倒しています。

環境の変化(乾燥化)による植生の変化への懸念

最近の環境の変化として大きいのは第一に昭和59(1984)年指定地4.12haを含む15.96haが桜草公園として開設 された事で、湿地が望ましい自生地と乾燥が望ましい公園の相反する2つを一つにくくってしまった事だ。
第二は荒川第一調節池が平成16(2004)年に竣工し囲繞堤と堤防に包囲され荒川の出水による冠水が殆ど起 きなくなり、乾燥化が加速された。
こうした要因による自生地の乾燥化による植生の変化はセイタカアワダチソウやアレチウリ等外来種の侵入や、 ヨシより乾燥地を好むオギが圧倒的に増えている事に表れている。

田島ケ原サクラソウ自生地の存亡は市民の双肩にかかっています

上記の問題解決には当然の事ながら自生地、公園、河川事務所の協同が不可欠だ。
2014年には「保存管理計画策定報告書」が出されているが2001年の「保護増殖実験調査報告書」からまったくと 言っていいほど現実には何も進んでいない。
昭和3年に主務大臣が内務大臣から文部大臣に移された事により文化財の所管が教育委員会になった。
教育委員会と行政組織は教育が行政の干渉を受けにくいように別個の組織になっていて本来的に緊密な連携が 難しい。世界遺産はコアゾーンを守るために周囲のバッファゾーン(緩衝地帯)を広く取って保護を進めている。
文化庁もようやくこの点に気付いて2019年4月1日付で文化財の保護事務を教育委員会から、条例により地方公共 団体の長が担当できるように法律の一部改正を行った。
自生地と周囲の桜草公園とは指揮系統を一本化してこそ現実的な対応が可能だ。野田のサギ山の二の舞にならぬ よう声を上げていこう。
2019(令和元)年9月5日改訂