田島ヶ原サクラソウ自生地のトラノオは何者?
09年6月観察記
自生地のトラノオはオカトラノオと単純に信じ込んでいました
04年からアチコチでオカトラノオを見ていた筈なのに去年まではサクラソウ自生地に咲くトラノオは花付きがよく花穂が太いので
オカトラノオ、荒川河川敷やその周辺に咲くトラノオは比較的花穂が細いのでノジトラノオと単純に信じ込んでいた。
サワトラノオは花期が早く、
ヌマトラノオは遅くて、それぞれ花穂が直立するから分かり易い。
「サクラソウ自生地内に見られる主な野草」にはトラノオはノジトラノオしか載っていなかった。単純にオカト
ラノオと信じ込んでいただけに「何で?」と思った。
5月19日には葉をつけ、23日以降は次第に蕾の白い部分が大きくなり6月2日についに咲いた。でも、それらの
葉を見ていて自分の間違いに気づいた。葉は幅が狭く先が尖っていない。まさしくオカトラノオではない。リーフレット通りノジ
トラノオだと思った。
ノジトラノオの特徴は茎に密に開出毛がある事です
今度は間違えないようにとキチンと調べてみた。
日本の野生植物には「横にはう地下茎から地上茎が直立し、高さ70−100pになり、円柱形で短い開出した毛がやや密に生える」と
あり、最後に「全形はオカトラノオに似るが、葉が細く、(中略)茎に密に開出毛があるのが特徴である」とわざわざ付記してあ
る。
開出毛(かいしゅつもう):植物体の表面に沿って伏すのではなく、立っている毛。必ずしも表面に直角
とは限らない。伏毛の対語。(用語解説)
ところがサクラソウ自生地のトラノオには目立った毛は無い。よ〜く見ると各入口近辺のトラノオには
ほとんど毛が無い。そして花は裂片が円みを帯びてほぼ平開している。
右が各入口付近等に普通に見られる茎に毛のないトラノオ
中央辺りのトラノオには茎に短毛が生え、裂片が細長い楕円形で細い花が花穂に密生している。この自生地中
央地区のトラノオがノジトラノオだろうか。それにしては各入口付近の大部分は何なのだろう。そして河川敷等に咲いているトラ
ノオは何なのか。
オカトラノオとヌマトラノオノの雑種にイヌヌマトラノオがありました
同じ図鑑のオカトラノオの項には「オカトラノオとヌマトラノオの雑種をイヌヌマトラノオL.x pilophora Honda
といい、両者の中間の性質をもち、関東北部にみられる」とある。
「彩湖の野草」という小冊子にはイヌヌマトラノオ1種だけしか載っていない。彩湖自然学習センターに問い
合わせてみたが担当者が辞めているので不明という。 (右は彩湖の野草より転載)
同じ地区の彩湖のトラノオがイヌヌマトラノオなら同種の可能性は高い。でも地域的にそう思うだけで雑種の
特徴で具体的に符合させるものは何も無く、イヌヌマトラノオと同定する要素は何もない。ただ消去法でそう思うだけだ。
花穂の形からは意外ですがオカトラノオ属はサクラソウ科です
長い花穂からは想像がつかないがオカトラノオ属はサクラソウ科だ。筒状の基部はサクラソウよりかなり短い
がれっきとした合弁花だ。多くの図鑑には花冠は5裂すると書かれているが、色々見てみると6裂も多く、時には7裂もあった。
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殆どの花冠が6裂しています |
一番下の花は7裂で雄しべも7個あります |
そして自生地内のトラノオには結構奇形も多く見られた。どの植物にもあるがこのくらいは普通なのか、多い
としたら何故なのか、調べてみると面白いと思った。
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素晴らしい陣形の様 |
最優秀作タコのイナバウアー? |
ブーメランのようです |
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一本の茎から2花穂が分岐 |
兎の耳もこんなに長くは・・・ |
3本の花穂がバランスいい |
中村直美理学博士の学位論文要旨からイヌヌマトラノオの特徴を抜粋
「葉の形、花冠裂片や萼裂片の形、葯の形、花柱の長さ等においてはオカトラノオとヌマトラノオの中間
形を示し、花冠及び花冠裂片の長さ、萼裂片の長さ、種子の網目模様においては、オカトラノオに類似し、種子や花粉の大きさ、
一地上茎につく葉数などはヌマトラノオに類似していた」
「乾燥化が徐々であった場合は、ヌマトラノオとイヌヌマトラノオの混生集団が割合長く保たれ、中間的な生育地の環境が保たれればヌマトラノ
オはなくなり、そこの一番適した遺伝子型を持つイヌヌマトラノオが生育すると考えられる」
とあり、3者の毛のタイプなどによっても識別できるとあったが、もう一つ理解できなかった。
09年7月7日作成